よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-01-05 21:32:44

【連載記事】おもんかなったらドームすいません(中島彩)

おもんかなったらドームすいません 中島彩

いえいえ、おもしろかったです。
というのは関ジャニ∞の年末コンサート、「EIGHT×EIGEHTER 五大ドームツアー (サブタイトル)おもんかなったらドームすいません」の話。

年内の仕事納めも無事終了し、年越しを別の場所で迎える同居人と同居猫を送り出し、いざ、年末の大掃除、とひとり残った家でこたつ布団やシーツの洗濯に取りかかるも気が抜けてなかなかはかどらずにいたザ・年末12月30日のこと。
友人から急なのだけどチケットが入ったので今から行かないかとのメールが入った。

はて、関ジャニ∞。
たしかそれが関西出身のメンバーによるジャニーズのグループだという程度に、まったく知らなくはないが、メンバーのひとりの名前とて、歌っている曲のワンフレーズさえ、思い浮かばない。
とはいえ、こちらはコタツ布団や台所の油汚れと戦う気力も十分にないどころか、どんどんと虚脱感がわきあがっていたところだ。
それに、「ジャニーズ」という人たちやその周辺にいる人たち、その間に起こるできごとを実際に見てみたい、
二つ返事で誘いを受けた。

会場は京セラドーム。
自宅から自転車で10分程の距離だが、「ジャニーズ」→「熱狂的なファンがいっぱい」→「混雑」→「自転車が置けない」と連想して、電車で行くことにする。
最寄りの駅で友人と待ちあわせ、電車に乗り込む。
着飾っている女の子を見ると、この人も行くんだろうかとそわそわする。
「ドーム前」の駅に着く。やはり、先ほどの女の子も降りている。他にも降りる人たちはめいめいおしゃれをしていたり、うちわのようなものがのぞいた紙袋を下げていたりする。
ホームから改札、地上の出口にかけてどんどんと人が多くなる。
中学生くらいから30代くらいの割合が多い。
ほとんどが女性。たまーに男性。
駅をでると、予想通り、多くの人でごった返している。ドームの入り口まで、直進距離はさほどないはずだが入場整理のための看板にそってドームの周りを迂回しながら歩いていく。
途中、チケットを手に入れなかったのであろう女の子たちが何人も「チケット譲って下さい!!」のプラカードを下げ、会場へ向かう人に呼びかけるのを見た。
必死に懇願する彼女たちを見ると、ほら、とたなぼたで手に入ったチケットを譲ってあげたくもならなくもないのだが、しかしすでに私もその気になってきているのである。ごめんね、と内心つぶやきながら、彼女たちの前を通り過ぎる。
これでもう後戻りはできない。

入り口が近づくにつれ、いっそう混みあってくる。
来場者を間近で見ると、別々のグループでありながら同じ衣装を着た人たち(野球のユニフォームやパンダの着ぐるみ)を見かける。何かのコスチュームなのだろうか。手にしているうちわやフリースのブランケット、バッグなども同じ柄のものがあり、どうやらグッズ売り場で買えるものらしい。
他にどういうグッズがあるのか、それらがどれくらいの値段で取引されているのか見てみたかったが、大混雑の中、ひとまず席を確認しようと会場内に入る。

京セラドームに来たのは2度目、10年ぶり。(一度目もたまたまチケットをもらった、やはりあまり知らない、バックストリートボーイズの公演だった。)なんとなく見覚えがあるような売店が並ぶ廊下から、ドーム内に入る。

すごい、ひと。
こんなに、どこからやってくるのか、まあ。
芸能ニュースによると翌日の千秋楽・昼夜2公演で9万人の来場とのことだから、この時も4万人くらいはいたであろう。
そんなにたくさんのひとが集まっている。

それからほどなくして、照明が落とされ、静まり返り、メンバーの映像がどーんと映し出され歌いだした後は、パステルカラーの巨大なカタツムリみたいな車が会場内を周遊したり、ステージが動いたり、気球船が飛んだり、火が噴いたり、水が出たり、予備軍(これがジャニーズJr.?)がでてきたり、めまぐるしくいろんなことが起こった。

パフォーマンスも、メンバー自身がバンドをしたり、プロのバンドがついての歌になったり、ロック、ラップ、バラードにパンダの着ぐるみ帽をかぶってNHKの子ども番組さながらの歌があったりと多岐に富んでいた。

観客の多くはファングッズの緑のライトを持っていて、それらを曲にあわせて振ったりしている。観客の歌うパートが決まっている曲もあるみたいで、その部分にさしかかると自然に大合唱になる。
関ジャニ∞は結成して7年になるらしく、それまでのコンサートでファンとのやりとりも幾度となく繰り返されたのであろう、事前になんのアナウンスもなく、それらははじまる。
毎年の終わりに、集まり、共通の憧れを抱いた大勢の人々と声を合わせ歌い、踊る。憧れの対象であるアイドルたちも、何万人のも視線を浴びながら、必死に歌い、踊り、観衆に応える。

テレビを中心としたメディアの創造物に過ぎないジャニーズに憧れるファン心理というものを、私は今まで理解できないものと思っていたが、この日、目の前で置きていることを見て、わかるような気がした。
それは疑似恋愛というよりかは、宗教(信仰)の感覚なのではないかと思う。普段はテレビの中でさほど近くはなくても身近に気配を感じており、年に一度の祝祭(コンサート)でより近くに存在を感じることができる。彼らにまみえる喜びを複数の他者と分ち合いながら、心の澱のようなものを浄化していく。
ここで神の役割を果たすのが20代の若者であることは驚きであるが、(何万人もの観衆の前にたつことは私には想像もできない)、これが本当に宗教的なものならば、神そのもののカリスマ性より神格化のシステムにこそ着目すべきで、実際に彼らの歌が格段にうまいかとか、容姿が際立って優れているかとかはさほど問題ではないのだろう。


それにしても、コンサートが始まってから、ずっと気になり、最後まで疑問が解けなかったことがあった。
オープニングの映像が始まって、関ジャニのメンバーがひとりずつ画面に映し出される。
1,2,3,4,5,6,7…
映像が終わって、舞台にメンバーが現れる。
1,2,3,4,5,6,7…
そして歌が始まり、2度のアンコールも含め、すべての公演が終わるまで3時間程。

その間中、何度も数え、幾度となく数え直したのだが。
1,2,3,4,5,6,7…
7人。
関ジャニ∞(エイト)。
コンサートタイトルは「EIGHT×EIGHTER」。
なのに7人。

それがずっと気になって、しかし周りに同じように疑問に思っていそうなひとは誰ひとりおらず、本人たちもそのことについて一切話さないし、何のアナウンスも流れない。
最初は演出のひとつで後から登場なのかもとか、急病で休みなのかもしれないとか、いろいろ考えていたのだが、その後も一向にあらわれないまま、アナウンスもないまま、終了した。

後から調べると、最初は8人でスタートした関ジャニ∞だが、メンバーのひとりは随分前に未成年での飲酒発覚事件のあと、活動休止、ソロで再開、グループ脱退となっていた。
そういえば、そんなニュースを聞いたことがあったような気もするが、もともと興味がないものだから、まったく思い浮かばなかった。
そのことは、熱心なファンはもちろんのこと、さほど執心ではなくとも何かと多忙な年末のコンサートに訪れる観客なら、ほぼ間違いなく全員が知っていたに違いない。
わざわざアナウンスするほどでもない「常識」で、私だけ(もしかしたら、他にも同じようなひとが数人はいるかもしれない)が知らなかったのだ。
考えてみると、あれだけ大勢の人々がいるなかで、たぶん自分だけが共通の記憶を持っていない、圧倒的少数派になることはそうはないだろう。
そう思うと、あのときは私は宇宙人だったのだと、おもしろく思えてくる。


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