よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-06-17 00:38:16

【連載記事】自動車免許の合宿へいく〜その1〜(蛇谷りえ)

自動車免許の合宿へいく〜その1〜 蛇谷りえ

 この町に移る前から、「車がないと仕事もあげれないよ」と地元のおかあさんから言われてたので、免許をとるために貯金してた(何度も使ってしまっていたけれど)のを必死にかき集めて、合宿できるタイミングを見計らいながら、おかあさんたちは隣町の自動車学校の申し込み書を持ってきて、言われるままに判子を押した。不安だし、車もってないし、いろいろ準備不足だけど、躊躇してる場合じゃない、なにかに背中を押されながら、必要な荷物を揃えて倉吉駅の改札口に12:35分に集合した。

 自動車学校の看板をもったおじさんが、ぼんやりたってる。「蛇谷です。」と名乗ると、三行ぐらいしかない名簿を軽く探して、「あ、はい。少々お待ち下さい」と、名簿をみながら返事をする。残りの人たちが改札口に訪れるのを待つ。そうこうしてると、大きな荷物をもったおじさんが目の前にやってきて、受付のおじさんが「Kさんですね」と声をかける。もう一人いる雰囲気を残しながら、「それでは車に乗りましょう」と話を進める。運転手兼受付のおじさんの背中を追いかけながら、知らないおじさんと目も合わせず、歩く。いつも高速バスで乗るターミナルも、いつもと違って見える。私は、これから何をするんだっけな。体と頭が追いつかないまま、大きなワゴンに乗って車が動き出す。「これから自動車学校へ向かい、入校の手続きを行っていただきます。必要な書類のご用意をよろしくお願いします。」と私たちだけに大きな声でアナウンスする運転手。いつも買い物にいく道も通りすぎていく。車の移動は、誰と乗るかでほんとに風景が違ってみえる。

 30分ほどして自動車学校に到着。車の外で髪の毛の茶髪でアンシンメトリーな髪型をした、腰パンなファッションの男の子グループがいて、大阪弁を話してる。一人の男の子はさわやかな笑顔をしてこちらをみてる、一人はニタニタしてそわそわしてる。私とおじさんが車を降りると「女の子二人来るっていったやーん!」と運転手さんに男の子たちがやじった。
 こそこそとそのまま、事務所にいって手続きをして、待ってる間、一人のかわいらしい女の子が現れて「ああ!女の子だ、私一人でさみしかったんです!どうぞよろしく!」と元気に近寄ってきたのだけれど、全然そんなテンションじゃなくて、苦笑いをしてしまう。そして適正検査室へ移動する。騒然とした一つの部屋に、バランスよく配置された四角い箱。一つは視力検査のマシンっぽい。椅子に座って待っていたら、受付のおねえさんがやってきて、「かるく運動をしましょう。手をぐーにしてのばして、前へ、下へ。」行為を言葉にされると、ほんとに頭をつかって動かすしかできない。そこに感情やリラックスは微塵もなく。真ん中にあった箱は写真撮影のマシンだったらしく、プリクラみたいにモニターをみて撮影し、視力検査をする。メガネを外すと一個目のアレもなにもぼやけて見えない。のび太っぷりに思わず情けなくて笑ってしまったが、メガネをかけたらちゃんと見えてた。

 次に、教科書や学校のルールを説明をうけ、漢字のふりがなを書き込むテストをして、早速学科が始まる。とてもキレイとは言えない、どこか夏休みの諸学校みたいなガランとした人気のない校舎。遠くの方でさっきの男の子たちの大きな笑い声が聞こえる。
 指定の部屋の前で待ってると、チャイムが鳴って少ししてから、まゆげが濃いめのひょこひょこと現れた。教室に入ると3人掛けするようなデスクがズラリとたくさんならんで、二人だけで後ろの方に座っていると「前に座ってください」と誘われ最前列に座る。まゆげのその先生は、自分の名前を名乗ることもなく、用意された冊子もののテストを説明し、二人に配布する。
 テストの内容は、「始め、終わり」の先生の合図に、△マークを時間内にいっぱい書いたり、間違い探しをしたり、たくさんの質問をはいといいえで答えたりしていくものだった。時々、ストップウォッチを持った先生は「はい!ここでラストスパート!」とか「ここからスピードあげて〜」と小さい声で急かしてくるが、その力の抜けように二人とも笑ってしまったりする。
 休憩時間になって、おじさんが「ここの寮に二週間宿泊して三十万円かあ。」とため息をつく。「えっそんなにするんですか?」と思わず反応してしまい、「ねえちゃんはいくらや」と聞かれ、迷いながら「二十一。」と小さく答える。少ししてから「若い子は二十一でホテル住まいで、なんで年寄りが三十払って寮暮らしやねん」と少し機嫌が悪くなった。何も言えずだまってうつむいていたら、遅れて集合に参加できなかった女の子が後ろの方に入ってきた。三人目はあの子なんだ。と二人ともさりげなく後ろをみた。
 次の授業は、学科と実技のスケジュールの説明。学科は一段階、二段階とあって、まずは一段階を合格しないと二段階に進めない。一段階を合格するには、授業に受講することと、試験筆記テストに四回以上九十点以上とらないといけない。あと、実技(運転)もある。この話を何度聞いてもまゆげの先生が、前後しながら話をするので、三人とも混乱してそれぞれに質問をする。知らない人に囲まれて、相手に質問をするっていうのは、こんなにも緊張したっけな。声がやたらと跳ね返ってきこえる。三人目の女の子も大阪の人らしく、少し低い声で質問する。大阪の女の子は声が低いので少し怖く感じる。先生は、特に感情的になるわけでもなく、淡々と返答をする。時には同じ内容の返答も同じようにする。先生と生徒の関係ってたしかに先生を頼るしかないし、先生も見放すわけにもいかないし、そりゃ恋心とか勘違いもしちゃうよね。と、関係性から勝手に妄想して遊ぶ。何かを把握してる人、してない人がいる状況で、信じるしかない感じはちょっと怖いけど、自分もたまにそんな覚えがあるなあ、と思い返してみたり。

 次は「運転安全センター」という施設へ移動して、ゲームセンターみたいなドライバー座席が並ぶ部屋へ移動する。そこに座るとモニターがあって映像が流れる。車の構造、原理、各種名称を解説を受けて、実際にハンドルを回してみたり、鍵をひねってアクセルやブレーキ、ハンドブレーキ、クラッチを踏んでいる。ギア、ニュートラル、ロー、バック、、ミッションの免許なので部品がいっぱいあって、覚えるのが大変。これも言われるままに体を動かす事しかできず、終わったら頭で体を動かしてた。半クラッチで、ロー。アクセルふんで、前方確認。ぐるぐる言葉が回りながら、授業は終了。食堂へ案内され、送迎バスが来るまでに夕飯を済ませる。食堂のおばちゃんが一人いて、男の子たちは相変わらず大騒ぎしていて、おばちゃんにもからむ。「おばちゃん、スプーンどこー?」と子どもみたいな声に、「おばちゃんちゃう、おねえちゃんや!」とすばやくツッコミ男の子。大阪。。

 送迎バスが来たらしく、食堂を出るときに、おじさんも遅れて入ってきて、夕飯のお盆を持ってぺこりと笑顔をみせてくれた。おじさんはここの男子寮で一夜を過ごす。声もかけられず、笑顔で返した後、私と三人目の女の子と二人で送迎バスに乗ると、初めにあった男の子たちがニヤニヤして乗ってきて、男子寮も途中までいっしょに便乗するらしい。三人目の女の子をよくみると、茶髪で髪の毛が長くて、つけまつげをキリっとさせてダメージパンツをはいている。男の子たちは、後ろに振り向いて「どこからきたの?」と素早く聞く。お女の子「大阪」男の子「大阪のどこ?」女の子「門真市」男の子「おぉ!」。と、さらりと会話して男の子はご機嫌に途中下車した。「やんちゃな子らが多いけど適当に交わしてね」と運転手さん。「ノリが若いですね」と女の子。
 車に揺られて指定のホテルに到着。私もひょんなきっかけで車の免許を取るわけだけど、女の子も、あのおじさんも、なんでここにいるんだろう。大阪の匂いがぷんぷんする合宿初日。これからどうなっていくのか、明日もドキドキする。

今日の夕飯


余所見