よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-06-18 22:30:55

【連載記事】自動車免許の合宿へいく〜その2〜(蛇谷りえ)

自動車免許の合宿へいく〜その2〜 蛇谷りえ

通い始めて3日目。時間が経つのは遅い。朝、寝ぼけながら送迎バスにのると、奥には初日に遅れてきた女の子と、元気なかわいらしい女の子がいて、「おはようございます!」と声をかけてくれた。静かに挨拶して、しばらくすると「どこから来たんですか?おいくつですか?」と質問され、答えるとおなじみの仰天した顔になる。もう数字的には若く認められないんだなあ。としみじみ。

学校について、3人で同じテーブルに座り、朝ご飯を食べる。自己紹介をして、なんでここの学校を選んだのか質問し合う。元気な女の子はTさん。もう1人はSさん。Tさんは実家がこの町だけど、大阪で勤務していて、Sさんは大阪生まれ大阪在住。ここの学校が一番安かったらしい。Tさんは残り3日ほどで学校を卒業するから、今までの学校のことやホテルの使い方に慣れていて、先輩のようにいろいろ使い方を教わる。それと同時にやんちゃな男の子たちのいろいろも聞く。
少し前は、18歳のコスプレ好きな女の子が来てたらしく、回りの男の子はウハウハだったらしい。それで、その女の子もいっしょに遊んでたそうで、ラブホテルまでいけたとか、いってないとか。しかも他の男の子もその子を好きだったとかなんとか。たった二週間の間に、そんな進展があるなんて、朝から動揺してしまった。

そうこうしてたら授業が始まり、教科書を広げて先生を待つ。五十分授業、十分休憩の三回分。先生は毎回代わるが、教室は同じなため、じっと同じ席に座っているとまるで演劇をみているような気持ちになる。先生ひとりずつ、教科書の使い方も、要点のまとめ方も全然違う。しかも、質問形式でもないので、淡々と先生は五十分間話し、私たちは聞き続ける。聞き続けるってのは、なかなかストレスも生まれるんだけど、先生によってそれがあまり感じないときがある。先生ってのも難しい仕事だな、と同情してみるけど、時折みせる権威に気が触れつつ、笑けてくるほどだった。例えば、これが山本握微くんの授業だったら、きっと楽しめただろう。米子くんだったら、かんちゃんだったら、境くんや松本さんだったら、となぜか余所見のメンバーを思い出したりして、終始半笑いで授業を受けた。

お昼ごはんも三人いっしょに食べたが、今度は頭の中が授業の内容と妄想でいっぱいでぼんやりしながら、話しをした。効果測定だっけな。そういう模試テストがあって、今週中に四回以上合格(九十点以上)取らないと仮免許の試験に受けられない。この効果測定ってのがくせ者らしく、Tさん先輩もいろんなアドバイスをくれた。二人でヒヤヒヤしながら、今度は実技の授業で、練習コース会場へ移動する。今日の先生はまた雰囲気が違って、私より恐らく年齢は若い。若いからってどうなのか、ってのはない先生は先生だし、と生徒らしく指導を受けるが、なかなかの突っ込まれようにどんどん自信はなくなって、この間までできてたクラッチ裁きも、自信なさげ。ブレーキもよわよわ。スピード出したら超こわいし。あげくの果てには、「あと2週間で路上コースですが、大丈夫ですか?」だって。こんちくしょー、そんな言い方ないじゃん!と、けちょんけちょんになって車を降りたら同じようにフラフラになったSさんが現れた。

はあー、とマニュアルを選んだ自分を自分で攻めながら、夕ご飯を食べに食堂にいく。TさんはいないのでSさんと二人で、まだ開いたばかりで人が少ない食堂の端っこで無言で食べる。なんだかこのままホテルで一人になるのも嫌なので、実技の出来なささをさらけ出して話しをする。「スピード出すのがこわくてさあ」と私が言うと、「私はスピード出し過ぎって言われて、」と落ち込んでる。
「スピード、早いのが平気なんだ」
「うん、お兄ちゃんが走り屋だからよく乗ってたの、オートマチック型は乗れてたんだけどね。」
「スピード出して、山を下るの。初めはこわいけどすっごい楽しいよ」
「そうなんや、何キロぐらいだすの?」
「180キロ」
「ひゃーー。でも、なんでマニュアル免許がいるの?」
「シビックっていう車にのりたいの」
「シビック?どんな車?」
「うーん、早い車(笑)」
そうかあ。と話は中断して、停止の仕方がわからなくて復習しようと、教科書を広げてあーでもない、こーでもないと話しをしてると、「なあなあ、どっからきたん?」と男の子の声が一つした。「大阪。」「大阪のどこ?」「大阪市」「なんの仕事してるん?」「パチンコ屋のバイト」「マニュアル免許を取るとかヤンキーやん」となんだか聞いてるこっちが会話に我慢できず、不意にマニュアルの停止の仕方を知ってるか聞いてみると、「俺、マニュアル免許であと三日で卒業やぞ!任せろ!」と自信満々に言うので、教えて教えてと話をきくと、とても上手に真剣に説明してくれた。なんだ、ちゃんと話ができるんじゃんか、と悪いやつじゃないんだね。と内心思っていると、送迎の時間がきて慌てて食堂を出る。

そしたら、さっきの男の子がいっしょに食堂を出てきて、「なあなあ大阪で遊ぼうや、電話番号教えて。」とSさんに近寄ってきたので、思わず「会いたかったら門真のパチンコ屋を探し歩いたらいいよ、そっちの方がロマンチックじゃない?」と笑顔でいうと、「うーわ!やられた!」と大きい声で残念がった。あはは、と笑いながら送迎の車にのって、しばらくすると、かっこいいデザインの車が止まってる横を通過し、二人ともそれを見た。そしたら女の子が「あんな車ですよ、シビック。」
「へえ、いいね。かっこいいね」
「でしょ。」
「その車からSさんが出てくるのがまた、たまらないね。」
「でしょでしょ。ただそれだけの理由なんですけど」
「十分でしょ。何色にするの?」
「ピンクか紫、青とか黒もいいけど人とかぶるから」
「うんうん、似合いそう」
彼女は静かに一瞬微笑んだ。愛想笑いではなく、温かい微笑んだ顔だった。160cm足らずの小さな体、胸やおしりのはっきりしたシルエット、金髪のストレートヘア、黒い服がよく似合って、個性的なつけまつげをした彼女が、大きな車の中から出てくる風景はすぐに想像できた。漢字もろくに読めないらしい彼女はそのために今頑張ろうとしていて、私も何か目標をつくって頑張ろうと思った。

今日の夕飯


余所見