よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-06-21 22:07:09

【連載記事】自動車免許の合宿へいく〜その3〜(蛇谷りえ)

自動車免許の合宿へいく〜その3〜 蛇谷りえ

一日が早く過ぎていくけど、まだ木曜日。午前中に学科を受けて、昼間に車の運転をする。車の操作は覚えたけれど、安全確認に注意が散漫としてスピードが速いと慌てる。心配ごとを減らしていかないとなあ。頭でっかちで体が重い。

学力テストはそこそこわかってきたものの、実技の運転になると「ギアチェンジが遅い」「スピードが出てない」「ギアの使い方が間違ってる」「落ち着いて」「頭でわかっていても体ができてない」「目の前じゃなくて遠くをみなさい」と、毎回先生に的確なツッコミをいただいて、もう一歩も動けない精神状態となり、落ち込んでは二十歳のSさんとくよくよしながら夕飯を食べる。Sさんも「運転が荒い」「スピード出し過ぎ」と言われたらしく、スピードが出せない私、スピード出し過ぎのSさんで「はあーあ」とため息つく。二人で教科書とにらめっこをしてると、以前、鼻血を出したお兄さんが「そんなん読んでもしゃあないで、慣れや慣れ」と言われ、まったくその通りだけれど。と、二人で口をもごもごさせる。

そんなお兄さんは、私よりも少し年上で同じMTの免許を取るために合宿している。昔はMT免許を持ってたけどスピード違反で免許が取り上げられて、そのまま無免許で仕事のために運転してたとか。無免許で二年ぐらい乗ってたらしい。すごい度胸。そりゃ怖くないだろう。Sさんいわく、あるブランドものの服を毎日着ている彼は、建築業をしているせいかむきむきの腕をして、大きな傷を鼻につけてギラギラした目している。ぴたっとしたTシャツからむきむきな黒い腕をみせる。ああ、そんなことが出来ちゃう世界でもあるのか、確実に私と見てきたものが違いすぎて、唖然というか、その見てきた何かがすぐには想像できなくて少し怖ささえあったけど、そのときは深く考えないようにした。

たかが免許。されど免許。守らなきゃいけないルールとか覚えなきゃいけないことがたくさんあって埋もれそうだけど、ここの合宿にいる人たちがたまに口走る、「免許はとったもん勝ち」ってのは、結構あたってるかもしれない。なんだかたくましさというか、根性みたいなものをもらったと思う。

帰りの送迎バスの運転手さんのギアさばき、クラッチ具合を、二人で覗き込んで復習をする。やっぱり想像以上にギアの手元は急がしそうに切り替えてる。もちろん、その運転具合は教科書通りではなく、二人で「ふふふ」と小さく笑う。「そんなもんなんですよ、やっぱ」と、にやにやした顔で小さく言う。仮免許の試験は月曜日。明日もがんばって運転するぞ。

いつかの夕飯


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