よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-07-11 23:43:31

【連載記事】自動車免許の合宿へいく〜その4〜(蛇谷りえ)

自動車免許の合宿へいく〜その4〜 蛇谷りえ

時は過ぎて、あれから仮免許は取れて、無事に卒業した。過去ってものは怖いもので過ぎてしまうと、あのときのドキドキ感が一気に薄れる。薄れるというか、鮮明な箇所とうるおぼえな箇所が出て、鮮明なところだけになってしまう。鮮明に覚えていることが、まるで大事そうな顔して存在する。記憶に残ってることだけが別に大したものでもないのに。

仮免許の試験日、Sさんは緊張して朝ご飯を食べた後、じっとしてらんなくて、食堂をうろうろしていた。私はもうどうにでもなれってな気持ちで、力を抜いて座っていた。おじさんは、「なるようにしかならん。」といって雑誌を読んでいた。時間がきて、コース場へ向かう。いつものコース場の端にある建物の一室へ案内される。少し薄暗く、カビ臭い。見慣れた先生によって試験コースの説明を受ける。使い回されたOHPフィルムに文字が書かれてて、先生の手もいっしょにプロジェクターに映り込む。コースはある程度決まっていて、試験を受ける私たち3名で一台の車に乗る、同時期に入ったSさんとおじさんと私の組み合わせになった。順番は忘れてしまったけれど、なんとかコースでの試験を終えて、ロビーに戻る。
極度の緊張がほどけて、Sさんは大笑いしてた。お互いの運転を目の当たりにしたので、「蛇谷さん、一時停止のとき、セカンドだったでしょ。」「Sさん、あのとき合図出してなかったやろ。」と二人ともダメだったところをツッコミながら「お互い落ちたなー、」と大笑いしてすごした。おじさんの運転はさすが経験者だけあって安定していた。余裕の表情。それでも、昔とちがったルールを守らないといけなかったり、スピード出てたりして、注意をされてた。
数十分たって、ロビーにある電光板に合格した人の番号が光るのを待つ。どきどきしながら、みんなで眺める。普通免許だけでなく、大型免許の試験もあったらしく。チャイムがなった後、光った電光板をみて自分の番号が光ってなくてがっかりしてたら、「ちがう、これは大型の試験の結果。」と驚かされる。「まあ、光ってなかったら『ちょっと番号の電球が外れてるんちゃいますかー?』っていったらいいわ。」とおじさんが冗談を言って和む。また電光板が光って眺める。「あー、だれかまた受かりはったなあ」とぼんやりSさんと眺めてたら、「あれ?これ仮免の結果じゃない?」と一人が気づいて、私たちももう一回じっくりそれを見て、見事にみんなの番号が光っていたのを確認し、「やったー」と背伸びして声を出した。電光板に背中向けておしゃべりをしてたおじさんも、その声を聞いて思わず振り向き、番号を確認して「余裕や。」とどや顔をみせて、みんながみんな安堵した。その次は学科試験があり、模擬テストを何度もやっていたのもあって、楽勝だった。みんな100点だったんじゃないか、ってぐらいそつなく終えて、無事仮免許を取得した。あの緊張はなんだったんだろうか。

その日の午後、早速路上に出る第二段階というステージにランクアップし、先生も変わり、ビシバシ厳しくなる。車の操作ができてある程度ルールがわかっただけの人間が一般道路に出るなんて、怖くて発狂しそうだったが、そうも言ってらんない。それに授業も4時間ぐらいあって、朝から夕方まで身体も頭もパンパンになる日々が続いた。「公共性を持ちなさい」「目先のことを考えるんじゃなくて、遠くの情報を読み取って考えなさい」「一気に全部しない、ひとつひとつすればいいから」「半クラッチの意味をわかってないのは素人以下だ」とあれやこれや心にグサグサ刺さりつつ、毎回入れ替わる初対面の先生とマンツーマンで1時間授業受けるプレッシャーとか、もう身も心もへなちょこになったけど、毎日食堂で話を聞いてくれるSさんや他の人たちがいて、明日もがんばるぞーと応援しあった。

二週間が経つ頃、私は関東へ行く予定があり、みんなと同じ卒業試験に受けることができないことがわかった。これでお別れになるかもしれないから、Sさんとおじさんに名刺を渡した。Sさんはあのときみたいに静かに微笑んでくれて、おじさんは「宿するんか、ええな。行かせてもらうわ。」と揚々とした顔を見せてくれた。
さようならをして、3日間ほど関東から鳥取へ戻り、駅から出る自動車学校へ向かう送迎バスを待っていたら、卒業して帰ろうとしてる面々がエスカレーターをあがってきた。「あれ?蛇谷さんじゃないですか?」と驚くSさん。「どうやった?」ときくと「高い下駄を履かせてもらいました。。」と恥ずかしそうに卒業を喜んでいた。おじさんも意気揚々と「さあ、これからが本番やでー」と、なんかのドラマみたいなセリフを言う。みんなの帰りを見送って、私は自動車学校へ向かう車に乗り込んだ。


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