よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2012-08-10 01:20:39

【連載記事】行き帰りのはなし。(後編)(中島彩)

行き帰りのはなし。(後編) 中島彩

((前編要約))行きはよいよい、帰りはなんとやら。スイスイと北海道に来た私は、ノートパソコンやインターネットやらを駆使してスイスイ帰りのチケットをとろうと思いきや、思わぬ障害が立ちふさがる。ようやく午前中に格安航空会社の北海道ー成田便と午後から成田ー大阪間を18切符で乗り切る計画を企てるも…


北海道を発つ。早朝、荷物をまとめ、滞在先の人たちとの別れの挨拶もままならぬままに、あたふたと駅へ。
電車が出るまでにトイレをすませておこうと、駅のトイレに入る。無人駅の小さなトイレは汲取式で、和式の便器の底には大きな穴が空いている。便器をまたぐ時に、ふと、いまサンダルを落として、帰れなくなったら、という妄想に取り付かれる。
サンダルを落としたら、片足は裸足のまま電車に乗るか、滞在していた民家に連絡して来てもらい、代わりのサンダルを貸してもらうか。どちらにしろ慌てて、予定の電車に乗り遅れれば、その後の飛行機にも間に合わないだろう。
そしたら、もうしばらく滞在を延期して、飛行機もキャンセルできるかな…と、具体的に段取りを考えはじめてしまう。帰りたくない、とどこかで思っているんだろうか。
心配は杞憂にすんで、無事トイレをすませ、電車に乗る。

30分ほど一車両の小さな電車に乗ったあと、小樽駅で快速に乗り換え、一時間ほどで空港に着く。離陸まで時間がなくて、慌ててチェックイン。搭乗。離陸。一時間ほどのフライトで羽田空港に到着。飛行機を降りると、湿り気を含んだ生暖かい空気が肺に流れ込んでくる。初夏の3週間を寒さすら覚えるほどの北海道の山間で過ごしてきたので、羽田に降り立ち、そこにすっかりある夏に、浦島太郎のような気分になる。

13時。空港を出て、電車に乗り換える。車内でノートパソコンをつなぎ、乗り換え検索サイトを開き、「青春18切符検索」という項目から18切符の移動に適した乗り換えを検索する。出発地「羽田空港」到着地「大阪」を入力すると、23時過ぎに大阪駅に到着するまでの乗り換え案内が表示される。1〜2時間おきには乗り換えなければならなく、それも乗り換え時間が5分とか10分とかで、18切符の醍醐味といえるだろう途中下車して駅周辺を散策したり、駅弁を買ったり、というようなことはできなさそう。
どちらにしろ、3週間分の滞在のための荷物プラスお土産で荷物は重たく、急に吸い込んだ夏の空気も重たく、寄り道したい気分じゃなかった。羽田空港から、東京、横浜と東海道本線を西進する。車内、滞在中に読もうと持って行ったが読めなかった小説を開き、ときどき窓から景色を眺め、駅のホームに並ぶ人々を観察する。昨日までなら、今の時間帯、仕事の真っ最中だったなと思い出しながら、それがもう終わったということに自分を馴染ませていくのには、一駅ずつ停車する緩やかなリズムがちょうど良い。うとうとしたり、滞在中飛ばし読んでいていたメールを確認したり。

疲れを感じ始めたのは静岡に入ったあたりで、ずっと座っていて腰が痛いというのもあるし、冷房の効いた車中と言えど暑さに馴染んでいないというのもある。それからトイレにも行きたくなっている。車両にはトイレもついているのだけど、それじゃなくて、ゆったり腰をかけたり、鏡を見て髪を整えたり、手を石けんでしっかり洗ったり、居住まいを正すためのトイレに行きたい。けれどここで途中下車して休憩すれば、今日中に大阪に着くことは難しくなる…。
悩んだけれど、静岡駅で一度トイレ休憩をとることにした。さっとトイレに行くだけなら乗り換えに間に合うかもしれない。ところがどっこい、駅に降りてしまえば、駅ナカカフェや静岡土産も置いてあるキオスクなんかがあって、トイレだけじゃすまなくなってしまう。コーヒー一杯のつもりがハンバーガーを食べ、一本のつもりのタバコも二本すって、しまいに駅を出たくなってきて。こうなればとあきらめて、静岡で一泊することも考えたのだけど、駅周辺は都会的に整備されていて歩いていて気分とあわない。一時間ほどうろうろして、再び電車に乗る。
車窓から眺める空はすっかり暗く、今晩中に大阪に帰ることはあきらめて、電車にゆられながらネットで宿を探し始める。
浜松駅周辺にビジネスホテルが多く、手頃な価格のところもあり、何しろ自分にとって未踏の地、今晩は浜松で一泊と決める。すっかり旅人気分になっている。

その夜はビジネスホテルの小さな部屋で、缶チューハイとおつまみをつまみながら、ホテルのフロント横の棚にあった漫画をだらだらと読みふけった。北海道での集団生活から、大阪に帰ってからの一人暮らしへと移行する途中に、旅の宿で一人過ごすことができたのは、ちょうどよかったのかもしれない。

翌朝、周辺を散策しようとあらためて浜松について調べてみたら、「江戸と大阪の中間に位置し、賑わいだ宿場町」とあって、なるほど、合点がいった。
そのあと、うろうろと寄り道をしつつも、夕方に無事帰宅。
長い道のりだった。


今回の大阪ー北海道間の移動に、行きは5時間、帰りは1日半かかったことになる。

そんなこんなで学んだことは、

1.格安航空などをうまく利用すれば、北海道は早く・安く行けて、距離を感じさせない場所になる。

2.けれど、距離を感じることも重要で、移動している間があるからこそ出発地で行われたことの整理や次の目的地への心構えができる。

3.ノートパソコンやスマートフォンなどを携帯し、インターネットにいつでもアクセスできる状態での旅は、格段に便利だ。
(というか、旅の性質が変わったように思う。)

4.けれど、旅をするのは結局人間で、身体の要求はかならずつきまとうし(特にトイレの問題は大きい。)、好奇心はわきあがる。そういうことに柔軟に対応した方が楽しく過ごせる。


またどっかに行きたいなあ。


余所見