よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2013-01-08 15:42:36

【連載記事】しりしり、蜂の巣、その他(永田芳子)

しりしり、蜂の巣、その他 永田芳子

今年のお正月はなますに困らなかった。

あれはいつだったか、ずっと使っていた調理器具が本格的に壊れた。人参や大根などを削って千切り状にするものだ。
刃にあたる部分はアルミ製なのでなんともないが、土台になる木が弱ってしまって、釘を打ちなおすにもどうにも、といった具合。いざ新しいのを買おうと、探すにあたって気がついた。この道具の名前が分からない。

各家庭でなにかの道具、例えば電子レンジを「チン」と呼ぶような慣習があったりしないだろうか。
この道具は我が家では「突くやつ」と呼ばれていた。雑だ。絶対に正式名称じゃない。しかし、子供のお手伝い時分から「これ、突いといて」と野菜と一緒に渡されていたので、漫然とここまで来てしまった。店頭で同じものを見かけない、というのも一因だろう。
これではたとえ道具屋筋といえど探せない。店内をキョロキョロ歩き回る。「なにかお探しですか?」と尋ねられる。「えーと、こう、アルミの板に穴が開いていて、野菜を千切りみたいに細長くおろすやつなんですけど…」店員さんもさぞ困ったろうと思う。これを数件、お探しの商品は見つからなかった。
今考えると写真の一枚も持っていけば良かったのだろうが、もういいや、という気分になって、結局包丁で千切りにする日々を送っていた。
が、昨年の秋ついに見つけた。此花住吉商店街にある「キッチン宝島SANYO」という店にたまたま入ったとき、ふと見た棚に掛かっていたのだ。穴の大きさもジャスト。迷わず買った。宝島の名はダテではなかった。

落ち着いてパッケージを見ると商品名は「千切り器」となっていた。そんな単純なことだったか。灯台のもとはめちゃめちゃ暗かった。だが、千切り器というと一般的には刃のついた、スライサーみたいなのを指すのでは。探したときもそのタイプしか見かけなかった。
はて、と検索をかけたら意外なことがわかった。どうやら、この道具は主に沖縄でよく使われているそうで、そちらでの名称は「しりしり器」。
「しりしり」とはこの道具で作る料理の名前。テレビの沖縄特集で紹介されたこともあるらしく、ネット通販などではしりしり器と呼ぶほうがかえって通りが良いようだ。
長年使ってきたが、そんなに地方色を帯びたものだったとは知らなかった。他に、マンガナー、蜂の巣、ともいうらしい。

ともあれ、おかげで昨年末のなます作りは楽だった。刃物よりも断面が粗く仕上がるので、味のしみこみがいい。
太めなので歯ごたえも程よく残る。ツマには向かないが、炊き込みご飯やサラダの際に活躍する。じゃがいもをこれで処理してガレットにするのもいい。
道具としてはそれだけ、ローテクかつ単機能。わざわざ昔ながらのものを使い続けるのはただのなじみだ。ならそんなにこだわらなくても、と言われそうだが、この程度のことなら手に残しておいてもいいだろう。



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