よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2013-01-09 09:35:59

【連載記事】いま読んでる本と、さいきん見てきたこと。(中島彩)

いま読んでる本と、さいきん見てきたこと。 中島彩

いま、「アウトドア・サバイバル・テクニック」(著・赤津孝夫、出版・地球丸)という本を読んでいます。『アウトドア・シーンで生き残るために必要な知恵と技術を食べる、眠る、着る、火をおこす、身を守るなど12のキーワードで綴る野外生活人必携の書』(本書表紙の解説より)、A5判、190ページ。見開き1ページでひとつのトピック(例:マッチやライターなしで火をおこすテクニック、熊には出会わない方法をまず第一に考える、など)を取り上げ、イラストや写真とともに簡潔にまとめてあって、古本屋で100円で買った割に、なかなか良い。

『食べる』の項に入り、「自然の中で食べられるものを見つけ出す」、「先人たちに学ぶ保存食の知恵」のトピックを読み進めて、はたと気がついた。
そこで紹介されている食材や調理法は、つい先の年末年始の間、滞在し働いていた奥飛騨の温泉宿で出されていた食事の食材、調理法と、よく似ているのである。

前菜の「飛騨牛のビーフジャーキー」しかり。
小鉢の一品で、「高野豆腐」や「大豆とひじきの煮物」しかり。
メインの魚料理に、イワナのハラを抜き取り、味噌を詰め込んで、笹で包んで焼いた「岩魚の笹焼」。
ご飯のお供の「お漬け物」。
大晦日の年越し料理には「焼き汐鰤(しおぶり)」がでて、これは富山の冬の冷たい海で獲れた寒鰤に塩をまぶし、浜風で干したものだそうだ。

宿は家族経営のこじんまりとしたところで、経営者のおかみさんが調理を担当、あくまで「家庭料理」として献立をたてている。滞在中、私は下ごしらえなどの調理補助や盛りつけ、配膳などをしてそれらの料理を目にしていたわけだけど、乾物の煮物や作りおきができる料理が多いことは、少数のスタッフ、時期によってはおかみさんだけで切り盛りしなければならない調理場でも対応できるようにかなと考えていた。
もちろん、それもあるだろうけど、しかしこれらは人里離れた山奥に位置し、冬期の間は雪によってほとんど外界と遮断された奥飛騨でまさにサバイバルするために編み出された食材、調理法だったのだと、気がついたのだ。

水気を抜くことで腐敗する速度を弱め、長期保存を可能にする乾物。
漬け物は、塩分の濃度の高さで腐敗菌の繁殖を抑えている。
魚も、はらわたを取り除き、塩をまぶして味噌を詰めることで保存が可能になるし、それによって海の幸を山で味わうこともできるようになる。
竹や笹の葉など、山にあるものは調理道具になる。
などなどの理屈が、「アウトドア・サバイバル・テクニック」に書いてあって。

地方の宿なんだから、そこでの料理がその地方での郷土料理であることくらい少し考えればわかりそうなんだけれど、実際その場にいても、宿の中は暖かくて快適だし、テレビもあるし、お取り寄せで町中で流行のスイーツも時々頂いたり、外がいくら雪深くても毎朝の除雪車のお陰で街からのバスも1時間置きに運行している。車で買い出しにも行こうと思えば毎日行ける。都会からのお客さんが毎日やってこられる。
そんな中では、実感としてそこがかつては冬期は人が立ち寄れない場所だったことなどあまり考えなくて、リアルタイムで見て取れる、おかみさんの調理の手際の良さ、料理の味や見た目なんかに目をとらわれていたのだ。

ところが、大阪の自宅マンションに帰った現在に、一冊の本を読んでいたら、最近までいた土地をするっと通り越して、かつてあっただろうその土地の生活まで想像できてきて。

なんだかいい読書体験でした。


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