よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2014-03-06 22:30:24

【連載記事】大王イカとコンパは共存しない。(中島彩)

大王イカとコンパは共存しない。 中島彩

コンパ、という程のことではないのだけど、先日、バイト先での飲み会に誘われた。
同じ事務所に出入りしながらも、あまり顔を合わせないスタッフ同士の交流の意も含めてで、私は誘ってくれた人以外は皆ほぼ初対面の相手だった。
街中の居酒屋で、二つのテーブルにわかれ、男女半々10人程のメンツ。

「最近、日本のどこかの港で大王イカが捕れたんだってね」
ふと話題が途切れたときに、斜め向かいの席の男性がそう切り出した。
馴染みないメンツでの飲み会の、微妙な沈黙を破るために、何の気なしに選んだトピックだったのだろう。
しかし、ダイオウイカ。
そう、ちょっと気になっていたのだ。

大きいものでは体長18mを超えるという。
日本付近の海流の温度が最近低くなっていて、生息に適した水温を求めて陸地に近いところへやってきたところを水揚げされるケースがこのところ増えたのだとか、あんなに大きいのに卵は1mmほどだとか、解明されていないことが多い謎の生物なのだとか。
世界中で見つかる大王イカは見た目が異なっており、別の種だと考えられていたが、最近DNA鑑定をしたところ、差があまりなく単一種であるという説が出てきているとか、うんぬん。
それまであまり話題に乗れなかったのに、大王イカの話が出た途端、知り得たばかりの知識を得意げに、ひとりでしゃべっていた。

「中島さんて、理科とか生物とか好きなの?」
「いえ、どっちかっていうと社会の方が…」

なんか微妙な雰囲気。
またあの沈黙が訪れ、別の男性が違う話題を持ち出して、会話の中心が移り変わる。
私は再び聞き手にまわる。

文化人類学とか、民俗学とかが好きなのだ。
もとはひとつの言語であったのが方々に散らばりそれぞれの国語となるとか、とある宗教が伝播するにつれ、その地域土着の宗教と結びついて独自の宗教となるとか、グーとパーのチーム分けじゃんけんのかけ声が「グーとパー」だったり「グッパでホイ」だったり「グパーグパーじゃっしーホイ」だったりするとかいう話が好きなのだ。
大王イカのDNAの記事を読んで、単一の種でありながら環境に合わせて変化しているとの話に、「大王イカもそうなんだ!」と、ちょっと嬉しくなって。

でも初対面の人ばかりの席で、嬉々揚々としゃべる話ではなかったな。(大王イカには非はないんだけど)
第一印象が「大王イカの人」になって、「不思議ちゃん」=「距離を置いてつきあおう」と思わるのも、「不思議ちゃん」=「おもしろそう!」と思われるのも、私は嫌だ。
それでいて、大王イカやグーとパーの話にドキドキする私も受け入れて欲しいと思うのだから、我ながらワガママだと思う。

それでも第一印象というのは、やはり重要だ。まずはニコニコと相づちを打って、当たり障りのない話をして。取っ付きにくい人よりかは、差し障りのない人になりたいと思う。まずはいろんな人と話すこと、そこから大王イカな部分を小出しにしていけばいいじゃないか。つねづねそう考えているのに。

今後はコンパで大王イカの話はすまいと、心に固く誓った。


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