よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2015-02-10 11:21:59

【連載記事】Ingressの効用(中島彩)

Ingressの効用 中島彩

 あまりにひどい夢を見た。

 そもそも、スマートフォンのゲームに熱中していたのがいけなかった。
 それは拡張現実・位置情報ゲームで、昨日は実家からの帰り道、ずっとそれをいじりながら移動していた。私が歩いているそこは、スマートフォンの画面を通して点と線と光の世界に置き換わっている。目の前に見える人々よりも、ゲームのアラート機能が知らせる、同時にその拡張現実世界を見ている人々の存在が強くなる。
 ふと我に返り化粧室に行き、鏡を見て、口の周りについたチョコレートに愕然とした。

 夢の中で、私は自分の部屋でゲームをしていた。
 ゲームにはニューバージョンが加わっていた。従来のバージョンではポータルと呼ばれる地図上の決められた地点に焦点を合わせHACK(侵入)というアクションをするとポイントを得られるのだが、ニューバージョンではポータルは場所ではなく動物の瞳孔になっていた。まず、トレーニング機能を始めると、暗い画面に動物たちの姿が浮かび上がってくる。狸のような森の奥に潜んでいそうな動物がこちらをむき、その瞳孔が光ると同時に画面をタッチする。するとポイントが加算される。なるほどと思い、トレーニング機能を終了する。
 すると、少しして自分の部屋の扉が開いて、3人の女性が入って来た。控えめな服装の、どこにでもいそうな人たち。しかし目がうつろで、精気が感じられない。
 私は瞬時に理解した。そのゲームのニューバージョンの本番では、画面上に現れる動物ではなくて、実際の人間にHACKするのだ。そして、そのターゲットとなる人間が現れたのだと。
 しかし、感心する間もなく3人を追いかけるように扉の端をすり抜けて、4人目の人間が入って来た。よく知っている女性だった。大学の先輩で、とても小柄だけど、キビキビしていて、鋭い。自分にも他人にも容赦なく、強い人だけれど、肉親に対してだけは甘えを見せる人だ。
 その人が私に向かって、毅然と「何してんの!」と言い放ち、私は再び瞬時に理解した。3人の女性は、私がゲームを始めたがために、現実世界からこちらの世界に呼び込まれてしまったのだと。私はあわててゲームの電源を切り、すると見る間に3人の女性に精気が戻った。何してたんだろうとばかりに、部屋から出て行く。
 それから4人目の彼女が、もういちど、さっきより静かに、「何してんの」と言った。
 私は少し考えてから、「あまりにリア充してなくて」と答えた。
 彼女は、私と私の手元のスマートフォンを見て、「そうやろうね」と言い残して、立ち去った。そこで目が覚めた。

 うん、ちょっとひどい。夢の展開も、夢に出てくるくらいゲームに打ち込んでしまったのもひどいんだけど、最期の自分の答えが「リア充してなくて」って言っちゃってるとこが最悪だ。潜在意識ですか。深層心理ですか。わからないけど、そんな事言ってる自分にはなりたくないなと、うん、そろそろ、なんとか動き出さねば。ずっと画面越しじゃなく、ちゃんと目の前の物を見なくちゃと思いつつ、寒さにおののく2月の朝。


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