よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2015-03-04 01:28:07

【連載記事】鶴を下さい!(櫨畑敦子)

鶴を下さい! 櫨畑敦子

という人に出会った、という話。

***

その場所は阪神百貨店梅田店の地下街。
少し年配の男性が追い詰められた表情で
通行人に対してひっきりなしに話しかける
その姿を見たことがある人もいるかもしれない。

その人の存在は前からなんとなく知っていた。
それは通りがかりに見かけただけであったが
今までに会話したことはなかった。

***

土曜日の混雑した梅田の地下街。
その日わたしは疲れ果てていた。
一刻も早く家に帰りたいという思いで歩いていた。
しかしながら捕まってしまった。

「ツ…鶴を下さいッ!」
と、あの形相で語り掛けられたら
四の五の言わずに鶴を折らざるを得ない。
「はい、折りますっ」
と、折ることにした。

彼は地下街の一角を少し陣取って
通行人に対して白い小さな紙を配って
その紙で鶴を折らせている。

話を聞くところによるとその鶴は
ヒロシマ・ナガサキの原爆被害にあった方へ届けるため集めているそうだ。
彼の陣取った居場所には
白い小さな鶴を集めて貼られた色紙のようなものがあった。

「鶴の折り方を知らないのですが」
と、伝えたところ
彼はわたしにレクチャーしてくれるのだが
なんとも華麗な語り口で教えてくれる。

あっという間に鶴はできあがり
そこに名前と日付を書いておくとのこと。

***

彼は会報誌のようなものを見せてくれた。
1部300円とか、200円とか書いてある。
無料で差し上げますというのだが
もらうのは何だか悪いので買うことにした。

300円ちょうど、がなかったので500円玉を出すと
2冊とプリント類を手渡された。
これは相当インパクトのある冊子であった。
内容も文章も、なかなか前衛的である。

関東のほうに本部?のようなものがあり
全国各地に同じ活動を行う会員がいるらしい。

原爆のことについてあれこれ話してくれる。
しかし聞いたら話す、ぐらいで、すごくうるさい感じではない。

しかし悲壮感は漂っていない、なんだか不思議な感じだ。
彼はこの活動に出会って充実しているそうで
そしてこれを機にこの活動に取り組む人もいるらしい。

***

彼がいつからこの活動を行っているのか聞いてみたところ
もうかれこれ30年近いということだった。
今は日中ガードマンをやりながら
火曜から土曜日までここに立っているそうだ。
週5で年がら年中、暑い日も寒い日も。
正直、唖然とした。

新しい働き方、生き方、活動…みたいなことは
巷でいろんな情報を耳にするが
そういうものとはかけ離れた場所にいるような
でもこれはこれとしてすごいジャンルだなと
圧倒された感じがした。

鶴をひたすら集めることと、この会報誌の販売で
どうやって活動資金を集めるのだろうか…
興味本位でとても気になったが、なんとなく聞かなかった。

***

街中で大きなデモや、スピーチなどを見ることがあるが
こういった類の、いわゆる「草の根活動」にはとても心動かされる。

道行く人は道に座り込み話すわたしたちを少し見る。
なにかしらの冷たい視線を確かに感じる。
しかし全く気にならない。

むしろペラペラ話したり
なんなら話を聞いてちょっと涙ぐんだりしている
昔からの友人より話せる気さえする。


なんなんだ、これは!


ふと時計が気になり
電話の液晶画面を見てみると
終電近くなっていた。
特に連絡先を交換するでもないが
また会いましょう、と別れた。

まあ普通に考えたら勧誘っていう行為なんでしょうけどね。
で、うまく会報誌とか買うっていう、ね。
いやしかしええもん見させてもらったな、という。
そんな話。



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