よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2015-05-09 12:09:37

【連載記事】始末の極意(中島彩)

始末の極意 中島彩

 数年前から、気に入った靴下は同じ物を二足以上買うようにしている。片足に穴が空いたら、空いた方だけを捨て、もう片足は残しておく。そして買い置きの分から、片足分だけをおろし、両足そろえてまた履く。また片方に穴が空けば、空いた方だけ捨て、片足分をおろす、を繰り返す。そうすれば、穴が空いてるのは片足だけなのに、両足分捨てなきゃならない、なんてことにはならない。一足の靴下を、二枚の靴下と考えるのだ。普通に履くより長持ちじゃないかと、貧乏臭い話だが、実践している。

 ところで二年程前から、「冷えとり靴下健康法」的なものを取り入れるようになって、新たな発見があった。これは肌に近い方から、絹の五本指靴下、綿の五本指靴下、絹の先丸靴下、綿の先丸靴下を重ねて履くというものなのだけど、問題は絹の五本指靴下だ。それまであまり店頭でお目にかかったことがなく、もちろん私のタンスにも入っていなかった。
 早速、買った。
 先に述べたまとめ買い節約法を、もちろん実践した。インターネットで同じ物を七足まとめて注文した。

…どうでもいい話だけど、絹の五本指靴下は割と高い。一足千円前後とブランド靴下並みである。けれど、重ね履きの内側になるので、靴や床との直接の摩擦は起こらず、長持ちする。
 ただし、温泉に履いて行くには注意が必要だ。泉質によっては、絹との相性が悪いのか、風呂上がりに履いていたら、一週間の湯治の間に絹の五本指靴下が全滅するという事件が起こった。それも、指先ではなく、足裏部分にぽっかり巨大な穴が空くという大惨事。…という話は他に聞かず、もしかしたら足裏から体内の毒素が排出されたのかも。うむ。

 余談さておき、発見の話である。
 先が丸い靴下と、五本指靴下の、大きな違いは何と言っても左右が決まっているかいないかだ。(※注)
 絹の五本指大人買いから約二年が経過し、タンスにはなんと見事に右足の五本指靴下ばかりが残っているではないか。どうやら私は左足に負担をかけて歩いているらしく、先に穴があくのは決まって左足だったのだ。これでは、あらたに左足分だけを買い足さない限り、右足の五本指靴下を再雇用することができない。しかし、そんな売り方はどの店でもしていない。
 落とし穴だ。
 いくらかくたびれて、しかしまだ引退するには早いと出番を待ち構える右足靴下たちが並ぶ抽き出しは、まるでシルバー人材派遣センターのようである。

 さて、同じような抽き出しが実はもうひとつあって、そこには左手の手袋ばかりが入っている。
 成り立ちは少し違っていて、両手に手袋をはめて外出。外出先で、財布からお金を出したり、メモを取ったり、携帯をいじったりに利き手である右手の手袋のみをはずす。そして、気がつけば右手だけがなくなっているという風。
 これもまた同じ側だけなので、残った物同士を合わすことができない。

 というようなタンスを整理していて、落語の「始末の極意」という話に挿まれる小咄を思い出した。
 ある吝嗇家が、両目で物を見るのがもったいないと、片側の目を外してとっておき、使っていた方の目が老眼で見えづらくなった時に、とっておいた方の目をはめてみた。すると初めて見る物ばかりで、知っている人が誰もいなかったというようなものである。

 節約の工夫は楽しいが、成功するとは限らない。


※注・先丸でも左右が決まっているものや、足袋靴下など例外もあります。


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