よそみ余所見

余所見は、見たり聴いたりした事と、それについて考えた事などを書くウェブサイトと紙の雑誌です。

第1号(249版)
2017年10月19日 16時40分33秒 発行

連載記事 

掲載日:2010-08-31 15:39:39

【連載記事】風邪(永田芳子)

風邪 永田芳子

ここ数年風邪をひいていない。丈夫で結構、無事が何より。生活上問題は無いのだが、少し惜しいとも思う。熱を出すのが嫌いでないのだ。


熱といっても微熱とかのハンパなのではなく、39度ぐらいの高熱。体質なのかなんなのか、夏と冬に一度ずつ決まり毎のように出していた。確かにそれなりの消耗はするが、あれは面白い。予測のつかないところが敏感/鈍磨におもいっきりふれる。印象的な事を挙げると、まず話し声や電話といった日常音から意味がごっそり消えた。うっかりテレビなんかついていようもんなら、寝床でガタガタしながら大爆笑である。やたら抑揚のついた、でたらめにも程がある奇妙な音でしかないものがこれでもかと聴こえてくる。今思ったが、よく赤ん坊がガラガラなどのにぎやかなオモチャを相手に笑っているのはこの感じなのだろうか。育ってしまったのでもう分からない。
皮膚の感覚が微細になるのも独特だ。ふだん着慣れたパジャマの生地がひどく不躾に思える。汗をかくのに合わせて何度着替えても、ちりちりする。体も痛い。そのくせ甘ったるくふわふわして痛む場所が特定できない。熱いのに寒い、という矛盾もいっそダイナミックだ。
で、たいがいはよほど仕事が忙しいとか延ばせない予定があるとかでない限り、病院には行かない。薬も飲まない。もちろん程度を計りつつではあるが、経験上長くて3日ほどで治る。混乱が収まり、徐々に元の、にぶさで保持された体に戻っていく。


東洋医学に明るい知人に聞いたところ、風邪というのは疲れや季節に体が順応できていないとき、リセットするような現象なのだそうだ。とすれば、この何事もない数年はそれらに合わせていけているという事か。それとも、反応できないほど変化に鈍感になっているという事か。
重病と縁が無いからこんなのんきなことを言える、というのは重々承知しているつもりだと思っていたいが、もし後者だった場合、それは健康と呼べない気がする。それでなくとも人一倍うすらぼんやりしているのだし、ここはひとつ体側にがんばって頂いて、支障の際には思い知らせて欲しいもんである。


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